今年から環境担当になったのですが、雨水はエコや省エネなど、環境問題の対策になりそうな気がするので、有効活用できないかと考えています。排水する以外に、何かいい方法はありませんか?
雨水はタンクで貯水しておくと、打ち水や植木への散水、災害時の水源に活用することができますよ。
せっかくなので、どれくらい雨水が有効活用できたかの計測も行いたいです。
IoTを使った計測はいかがですか?
貯水タンクはボイラーやコンプレッサーなどの動力設備と比べて、日常点検するような設備ではありません。ですが、点検を完全に忘れてしまっていて、気がついたら異常が発生していた、ということも起こる可能性があります。
IoTを活用すれば、雨水の流量測定だけでなく、タンクやポンプの状態なども常時無人で監視してくれます。異常の即時察知や、予知保全活動にもつながり、安心です。
雨水を有効活用する方法は?
雨水を有効活用するには、敷地内へ貯水タンクと送水ポンプの設置が必要です。
貯水した雨水は、主に以下の用途で使うことができます。
1. 植栽への散水
敷地内の芝生や植木、花壇などへの水やりに
2. 敷地内の清掃
建物外壁や駐車場などの清掃や水撒きに
3. 非常時のトイレ洗浄水
災害時など、断水が発生した場合のトイレ洗浄水に(雨水は色がつくため、通常時の利用には不向きです)(飲用水には利用できません)
雨水を有効活用することでの効果
雨水を活用することで、以下の効果が期待できます。
水道代の削減に
雨水は無料で入手できるので、貯水システムを設置する初期投資を除けば、追加のコストはほとんどかかりません。植栽範囲が広い場合などは、効果がより高まります。
環境への負担減に
雨水は、植栽にとっては塩素などの化学物質が少ない水源のため、降水のような自然環境に近い形で与えることができます。ただし、長期間貯水した場合は、雑菌発生のリスクもあるので注意が必要です。
BCP対策として
上水は、非常時は特に飲料水や生活水として使える貴重な資源となります。植栽やトイレ水洗などに雨水を活用することで、非常時の上水の使用を控えることができます。
雨水利用による水道代の削減効果を見るにはIoTがおすすめです。
ここからは、IoTでどのように水道代の削減効果を測定するのかを見ていきましょう!
雨水をIoTで計測するメリットとは?
貯水タンクやポンプ、散水機、配管などの各種設備にIoTを取り付けておくことで、雨水の活用効果を「見える化」できます。
メリット1:「雨水の再利用量」「ポンプ運転回数」などを確実に記録
散水に使用した水量を記録
IoTを用いることで、散水に使用した水量を正確に測定・記録できます。これにより、どれだけの雨水が再利用されているのかを把握することができます。
ポンプの運転回数のモニタリング
IoTは、ポンプの運転回数も自動的に記録します。ポンプの使用頻度や効率性を簡単に分析でき、必要に応じてメンテナンスや調整を行うことができます。
水ヒストリカル(積算)の記録
過去の水使用データを積算して記録することも可能です。長期的な水使用パターンを把握し、さらなる効率化や節水対策に役立てることができます。
メリット2:無人での遠隔監視が可能に
流量計確認の手間を削減
センサーやデバイスがリアルタイムでデータを収集・送信するため、現地に行って流量計を確認する必要がなくなります。これにより、流量計点検の手間や時間を省くことができます。
作業者の安全を確保
流量計の点検作業をリモートで行えるため、屋外で雨水や風、周りの設備などを気にしながら点検する必要はありません。作業者の安全が確保され、労働環境の改善につながります。
正常動作の可視化
ポンプが正常に作動しているかどうかを、リアルタイムで監視することができます。万が一異常が発生した場合には、即座に通知を受け取ることができます。
故障の追跡
仮に流量計が故障した場合でも、いつ故障が発生したかをIoTが正確に記録。迅速な故障原因の特定と対応が可能となり、ダウンタイムを最小限に抑えることができます。
メリット3:任意の単位を設定して計測が可能
カスタマイズ可能なデータ管理
流量データを1時間、1日、一週間単位などカスタマイズして記録できます。これにより、細かなデータ分析が可能となるだけでなく、必要に応じた情報の抽出が簡単になります。
月間単位の使用量集計とグラフ表示
月間単位の使用量を自動的に集計し、数値として表示することが可能です。また、グラフ表示により視覚的にデータを把握でき、傾向や異常を直感的に理解することができます。
ヒストリカルデータによる効率的な管理
ヒストリカルデータの積算により、月ごとの集計作業が不要になります。過去のデータが自動的に保存され、必要なときに簡単にアクセスできるため、データ管理の効率が大幅に向上します。
IoTというと、とても難しいイメージを持つ方も多いのですが、実際は簡単に扱えるものも多いのでご安心ください。豊安工業でも「かんたんIoT」などのソリューションがあり、設置のお手伝いをさせていただいております。
ここからは、IoTを含めた雨水の再利用に関して気をつけておきたいことを解説します!
雨水を再利用する上で注意すべきポイントとは?
流量計の種類
流量計には、以下のような種類があります。
羽根車式
配管の中に取り付けられた羽根車を、流体の流れる力で回転させて、流量を測定するタイプです。
正確に流量を測定できるため、家庭の水道などにも使われています。ゴミ詰まりにより、羽根車が動かなくなると機能しないので注意が必要です。
超音波式
超音波を放出し、伝播時間の差により流量を測定するタイプです。
超音波の計測には誤差が生じるため、少々の誤差に影響されない大量の流体などを測定するのに向いています。流体に触れる部分が少ないため、詰まりを心配することはありません。
雨水には落ち葉や砂利などのゴミが混ざるため、羽根車式だとすぐに詰まり動かなくなってしまいます。超音波式を選ぶようにしてください。
ただし、超音波式であってもゴミ取りフィルターは清掃する必要があります。IoTで監視しておくと、フィルター詰まりなどの異常を察知できて便利です。
タンクの貯水量
大容量タイプ
大型タンクは多くの雨水を効率的に再利用することができます。しかし、サイズが大きくなるため、運搬や設置に制約があります。特に、狭いスペースやアクセスが難しい場所には、大型タンクの設置は困難です。また、特殊な運搬車両や複数の作業員が必要になる場合が多く、コストがかさむこともあります。
小型タンク
軽量でコンパクトなため、限られたスペースにも設置ができます。運搬が簡単で、市販品も多数あり、コストを抑えての設置ができます。ただし、容量が小さいため、思った以上の散水ができなかったり、非常時にすぐに水が枯渇してしまう場合があります。
それぞれのタンクを組み合わせるなど、複数台での運用も視野に入れながら、使用環境に応じて選ぶことが大切です。
配管の種類
金属配管、塩ビ管(PVC管)など
機能性に優れており、一度施工すると安定した運用ができます。ただし、配管工事が大規模になったり、突発的な設計変更への対応が難しい場合があります。
ホース(軟質塩化ビニール、シリコンゴムなど)
コスト、時間とともに抑えられ、簡易な工事で導入できますが、ホース劣化や、ホースの折れ・曲がり・ねじれなどにより勾配が作れず、雨水が流れない原因となるため、注意が必要です。
なるほど、設置場所やタンクの貯水量によっても配管の選び方が変わりそうですね。
電源の確保
貯水タンクや散水システムは屋外への設置がほとんどです。そのため、設置場所によっては、電源が確保できない場合があり、電気工事が必要な場合があります。
しかし、大規模なシステムでなければ、100Vの延長コードリールでも対応可能な場合があります。景観やコストとの兼ね合いも含め、電源確保についての検討をするようにしてください。
散水機のタイマー化
常時の散水や、必要以上の散水量に設定してしまうと、タンクがすぐ空になってしまいます。タイマーにより散水をコントロールし、雨水をより有効活用できるようになると、雨量が少ない時や非常時の対策にもなります。また、蛇口を取りつけて手動で散水をコントロールすることも可能です。
タイマーには以下のようなものがあります。
- 水量連動タイマー
- 時間、日数、曜日などの間隔指定タイプ
ここからは、実際に豊安工業が施工のお手伝いをした事例を見ていきましょう!
雨水活用システムの導入事例
既存のタンクに拡張性を持たせ、IoTで雨水を測定
本格的な雨水活用の前に試作機での検証から開始
IoTで効果測定しながらスモールスタート
2024年2月から試作運用実施
中部圏 ロジスティクスセンター ランプウェイ倉庫
導入の背景
雨水の有効活用にあたり、IoT計測のできる試作システムをテスト導入したいとのご要望がありました。
テスト先は、大型ロジスティクス倉庫のランプウェイ付近に決定。 屋上や各階に降った大量の雨水が排水管を通じて一か所にあつまる構造のため、取水もしやすくテストには最適な場所です。
豊安工業ではタンクや配管の施工まで一貫して行えるため、貯水、散水、散水量の計測を前提にご相談いただきました。
安定した通信と画面が直観的で分かりやすいということで、IoTはPUSHLOG(GUGEN)を使用することが決まっていました。
施工にあたっての提案、改善
当初はオリジナルのタンクを製作も検討しましたが、コストと機能を考慮すると、市販の排水ポンプ付き貯水タンクを流用するほうが開発費を削減できると判断。 移設運搬および再利用に最適であることを提案し、採用されました。
約1000Lの雨水貯留漕には、タイマーを活用した自動散水機能も搭載しました。 加えて、お客様のご要望に応じて、他社販売用システムとしても活用できるようシステム構築させていただきました。
施工後の振り返り
これまでのPUSHLOGのノウハウにより、ノントラブルでスムーズに流量測定ができる試作機となりました。流量だけでなく、ポンプと流量計の稼働ステータス(接点信号)もIoT化によって測定。以下のメリットを享受できるようになりました。
- 現地に行かずに散水量を把握
- 時間ごとの散水量を把握
- 一定期間での散水量を把握
- 装置の正常稼動の遠隔監視
今後、2号機以降の計画も視野に入れていただけるとのことでした。
現場から離れた場所でも動作状態を確認できます
散水量グラフ(月ごと、日ごと、時間ごとに切替可能)
よくある質問
降り注いだ雨水にはゴミや汚れ、雑菌などが含まれています。飲用に使用することはできません。
基本的にはフィルターが汚れたら水洗いしたり、取り替えたりするだけでOKです。
特に難しいものではないため、メンテナンス契約なども不要で、お客様ご自身で点検頻度を決めるなどしてメンテナンスいただけます。
規模にもよりますが、豊安工業では、20万円~(本体代別)を想定しています。詳しくはお問い合わせください。
今回ご紹介したPUSHLOGであれば、メンテナンス不要でお使いいただけます。
IoT機器自体に異常の予兆がある場合についても通知されます。
防塵・防滴仕様のBOXとコネクタを使用しますので、屋外でも問題なくご使用いただけます。
水中ではご利用いただけません。
お役立ち資料ダウンロード
工場ペディア編集部からのメッセージ
雨水の有効活用はエコフレンドリー コストダウンだけでなくSDGsやサーキュラーエコノミーの取り組みに
雨水の有効活用は、コストダウンはもちろんのこと、エコフレンドリーな活動としての側面もあります。水資源を無駄にしない取り組みとして、SDGs(持続可能な開発目標)やサーキュラーエコノミー(循環型経済)にも貢献します。
非常時のトイレ洗浄水の雨水での代替はSDGsの目標6(安全な水とトイレを世界中に)に、植栽への雨水散水は目標12(つくる責任・つかう責任)にそれぞれ関連するのではないでしょうか。雨水の再利用は、私たちの生活と環境の両方にメリットをもたらす効果的な方法で、持続可能な未来を目指すためのステップにもつながります。
この記事を監修した人
岩田 吉弘
豊安工業株式会社 設計部システム室
資格:第二種情報処理技術者試験、初級システムアドミニストレータ試験
得意分野:IT関連
2012年より遠隔監視システムの導入工事を通じてIoTによる工場管理システムの可能性を発見。2019年からは工場向けIoTソリューションの開発を担当するプロジェクトマネージャーとなり、自動車関連の中小企業の工場の運用を効率化することに貢献している。