工場水源のBCP対策は行っていますか?2022年には、明治用水で工業用水が漏水により確保できなくなり、生産ラインに悪影響を与える事故が起きましたね。
あの時の急な断水で、うちの工場は稼働停止になりました。
BCP対策は早めにやろうと思っていますが、何からやればいいのか…
BCP対策を進める場合は、水処理についても理解が必要です。
BCP対策しながら製造用水をうまく活用すれば、省エネやコストダウンにも繋がるんですよ。
BCP対策とコスト削減に!自家水道の基礎知識
工場の主な水源
工業用水
河川などの水をくみ上げ、沈殿処理や薬品注入などを経た水です。廃水がリユースされることもあります。初期費用は所在地や契約水量によって異なり、水代は30~70円/m3で利用できます。
地下水(井水)
地下にたまった水(井戸水)です。井戸の採掘費用などの初期費用、ポンプなどの電気代や水質検査等の維持費はかかりますが、水代は無料。水道代のコストダウンにつながる可能性があります。
水道水(生活用水)
家庭でも使用される水です。水道水は安全性高く、最も手軽に利用できますが、水代は200~300円/m3程度と、工業用水の3倍以上になります。あまり多くの水を使わない場合に向いています。
普段使っている水を非常用に貯めておく、貯水も有効です。
自家水道の水処理の流れ
コストの安い工業用水や地下水は、そのままでは飲料水や製造用水には適していません。
適切な濾過処理を行い水質管理して供給するまでの流れをご説明します。
1. 原水槽
深井戸からくみ上げた地下水、工業用水を原水槽に貯留します。
2. 濾過装置
前処理で、鉄、マンガン、濁度、色度の除去を行います。
3. 前処理水槽
前処理した水の貯蔵・水量調整を行います。
4. 膜ろ過装置
高度ろ過を行い、飲用できるレベルまで処理を行います。
5. 24時間監視装置
24時間・365日、残留塩素濃度、濁度、水量等を監視します。
6. 受水槽
工場用水を必要量に応じて貯留します。
自家水道の導入時に膜ろ過設備を入れることで、非常時にも飲料水を製造でき、近隣の水源提供も可能になります。
BCP対策には地下水がおすすめ
水源が確保できないと、工場が稼働できず、生産ラインがストップしてしまいます。そんな時におすすめなのが、地下水です。
直下型地震に強い
地下水は直下型地震に強く、もし水道水が断水しても使用可能です。
工業用水ストップに備える
大規模漏水があった愛知県の明治用水頭首工では、工業用水の取水ができなくなり、地下水や貯水が活躍しました。
水道水も工業用水も止まってしまったときの備えになるのが、地下水です。
長期的に考えると、容量限界に早く到達する貯水よりも安心感があります。
自家水道導入のメリット
上水道代金のコスト削減に
現在使用している上下水の約90%を地下水に切り替えることで、上下水道料金の削減となり、施設運営費を削減ることができます。
非常用水源の確保
地下水(井戸)は直下型地震に強く、上水道断水時にも使用可能。井土を保有することで、非常用水源を確保することができます。
災害時の水供給による地域貢献
非常用水源を保有することで、断水時でも近隣住民への入浴開放や水の提供が可能。地域貢献につながります。
自家水道を持っておくと、災害時の近隣住民への入浴提供など、地域貢献もできるんですね。
自家水道に関して、気を付けるポイントも知りたいです!
自家水道で気を付けるポイント
自家水道の導入、維持・管理
導入について
地下水を使った自家水道を導入するには、まずは井戸を掘れるかを、行政へ確認し、届出を行います。
許可が下りたら、井戸を掘ったり、水質を確認したり、工場や水質に合ったシステムを構築したりする必要があります。
維持・管理について
維持・管理については上水道と違い、メンテナンスや水質チェックを自分で行う必要があります。
停電するとポンプなどが使えなくなるので、予備電源があると安心です。
導入までに数か月かかることもあります。専門業者などと連携しながら進めていきましょう。
維持・管理についても、外部委託管理がおすすめです。
自家水道に必要な設備、導入費用
必要な設備は?
地下水を工場で使うには、以下のような装置が必要な場合があります。
- 揚水ポンプ
- ろ過装置
- 水質分析装置
- 貯水タンク
- モニタリングシステム
など
導入費用は?
場合にもよりますが、導入に係る費用が数百万~数千万円することもあります。
初期費用が気になる場合は、毎月利用した水の量に応じて指定の金額を払うという仕組みを取っている企業もあります。
計画的なスケジュール、予算取りをしながら進めないといけませんね。
豊安工業でも水源のBCP対策のお手伝いをしています。
ここからは、BCP対策に関する改善のご提案の実例をご紹介します。参考にしてみてください。
水源BCP対策の実例
実例1:スモールスタートでBCP対策を実現
明治用水の断水以来、BCP対策を取ったほうがいいと思うが、何から始めていいか分からない
愛知県 金属加工会社様
改善提案内容
初めて水源のBCP対策を行うお客様のお話をおうかがいし、最初から地下水を導入するのは大掛かりで、ハードルが高いと考えました。
そこで、敷地に余っていたスペースに貯水タンクを設置して、応急処置のみできるようにしてはどうかとご提案しました。
改善効果
まずは非常用として、半日分くらいの貯水タンクを作りました。これで、万が一の際に工場の稼働が即停止することから免れました。
今後は、地下水導入も視野に入れながら、自家水道化を進めていく予定です。
実例2:地下水ろ過による水質アップと、水使用のコストダウンを実現
工場拡張により水道水の使用量が増える予定だが、これ以上水道水の量を増やせないと行政通達があり、困っている
改善提案内容
水量制限に加え、水質も水道水レベルを担保する必要がありました。
そこで、井戸類を高度ろ過し、水道水レベルの水を作って工場で使用してはどうかとご提案しました。
改善効果
地下水を使うため、水道料金より安価に使用できるようになりました。
(例:水道料金250円/m3に対し、自家水道料金は180円/m3)
水源が確保できたら、純水装置で不純物を取り除くと「純水」として活用することができます。
純水、純水装置についてはこちら
よくある質問
基本的にはかかりません。正式には行政の確認が必要となります。
工場の稼働に影響するため、段階的に行うなど、できるところから進めてみてもよいでしょう。
位置によっては深く掘っても工場で使用するのに十分な地下水が見つからない場合があります。
この場合は自家水道システムを利用したいと思っていても、残念ながら導入を諦めるしかありません。
設備を清潔に保ったり、定期的に水質検査をしたりする必要があります。
豊安工業では、設備のプランニングから維持管理まで、総合的に対応しております。
工場ペディア編集部からのメッセージ
工業用水のBCP対策は急務!
自家水道をうまく活用すれば省エネやコストダウンに
2022年5月17日未明に明治用水頭首工において発生した大規模漏水を受けて工業用水の供給量が制限された際、生産に大きな影響があった企業様は多かったのではないでしょうか。
昨今では地震や台風の影響が多くなっており、工業用水のBCP対策が急務となっています。
自家水道を導入する場合、併せて膜ろ過設備や純水装置を設置すると、非常時の飲料水や、塗装や洗浄に使う純水として利用できるようになり、水源活用の幅が広がります。また、工場排水を高度ろ過処理・リユースすれば、更なる省エネやコストダウンにも繋がります。
※純水、純水装置についてはこちら
環境にも配慮しながら水源を最大限に活用するために、工場全体の水処理設備を見直してみませんか?
この記事を監修した人
池田 広行
豊安工業株式会社 アクアエンジニアリング部
資格:管工事施工管理技士1級、一級ボイラー技士、ボイラー整備士、危険物取者乙種4類
得意分野:蒸気ボイラー熱源設備、水処理設備全般(ろ過、膜、排水設備)
設備のトータルプランニングや配管工事、そしてメンテナンスに関する業務に豊富な経験を持つ。 カーボンニュートラルの取り組みとして、省エネ機器の導入や、排水設備の適正処理における廃棄物削減、 水資源の有効活用による、環境保護に重点を置いて活動している。 主な取引先は製造業、特に自動車部品加工、ゴム製品、化学工業、非鉄金属製造(ケーブル)、繊維工業、食品加工など。