
電気代がかなり上がっていて、排水処理の見直しができないか探しているのですが、何から手をつければいいのか分からなくて…

そういう場合は、まず排水処理プログラムの内容とブロアの運転状況を確認してみましょう。
特にMLSS濃度が高すぎると、無駄な電力を消費している可能性があります!

MLSS濃度ですか…
今まであまり気にしていなかったのですが、見直しの余地があるかもしれませんね。

その通りです!
水質が維持できていれば、MLSSの最適化とブロア運転の見直しによって、電力削減が期待できますよ。
排水処理の見直しが電力削減につながる理由
排水処理にかかる電力の多くはブロアが占めるため、MLSS濃度の見直しやDO管理によってブロアの運転を最適化すると、電力削減に直結します。
ブロアは排水処理で最も電力を使う設備
活性汚泥法では、微生物に酸素を供給するためにブロアが稼働しています。このブロアは排水処理工程の中でも最も電力を消費する設備です。
- MLSS濃度が必要以上に高い場合
→供給すべき酸素量が増え、ブロアの稼働量が増加
→結果として、余分な電力消費につながる
そのため、排水の性状や処理水の基準に合わせてMLSS濃度を適切に調整し、最小限のブロア運転で処理を安定させることが重要で、ブロアは曝気槽内の撹拌も同時に担っています。
DO値だけを頼りにブロアを絞り込みすぎるとトラブルを招くことも
- 撹拌不良が起こる
- 槽内で汚泥が堆積し嫌気状態になる
- 嫌気化により汚泥が腐敗するリスク
DOだけではなく、MLSSと槽内の撹拌状態を踏まえて運転調整することが必要になります。


MLSSとDOの関係を理解しよう
MLSS濃度とDO値(溶存酸素)のバランスを取ることで、ブロアの稼働を最小限に抑えながら、安定した排水処理を行うことができます。
MLSSの適正管理がDOを安定させる
MLSS(Mixed Liquor Suspended Solids)は、混合液浮遊物質の濃度を示し、処理槽内の活性汚泥の量を表しています
- MLSSが高すぎる場合
ブロアで酸素を行き渡らせるために、より多くの空気を供給する必要があり、ブロアの負荷が上がります - MLSSを適正値に下げていく場合
少ないブロア運転でも酸素が安定して供給され、DO値の維持が容易になります

MLSSを適正値で管理し、必要な酸素量に応じてブロア運転を調整することが、省エネの鍵となります。
電力が無駄になる原因とその背景
処理水が基準内であってもプログラムの見直しを怠ると、不要なエネルギー消費が続いてしまうリスクがあります。
排水状況が過去と大きく異なっているケース
- 生産量の減少
- 原材料や生産品目の変更
- 生産設備(機器や工程)の改善による排水負荷の低下
- 排水量は増えていても、汚れ(生物にとっての栄養)が減っている場合
これらの変化により、既存の設備や制御プログラムが現状に対してオーバースペックとなることがあり、その結果、不要な電力消費につながることがあります。


排水処理が「成り行き管理」になっているケース
多くの工場では、処理水が基準値内に収まっていることに安心し、排水処理プログラムの見直しを行わないまま運転を続けてしまうケースが見られます。
特に、季節や生産品目の変化によって排水の性状が変化しても、処理条件をそのままにしてしまうことが多く、結果として非効率な運転が継続し、電力の無駄遣いにつながっていることがあります。
排水処理プログラム見直しの実践手順
排水処理プログラム見直しの手順
- 原水の水質データを確認し、必要となるMLSS濃度を算出する
- 算出したMLSS濃度と現在運転中のMLSS濃度を比較する
- MLSSが高い場合は処理水の状態を確認しながら、段階的にMLSS濃度を下げる
- MLSS濃度の変化に応じてブロアの運転条件を調整する
- 調整中および調整後はDO値が適正範囲に維持されているかを継続的に監視する
- 設備の更新時期には省エネ型ブロアへの入れ替えを検討する
- 上記を踏まえ排水処理プログラムを定期的に見直し、運転条件を最新の状態に更新する
属人化を防ぎ電気使用量を月15%削減できた事例
ポイントは生産部門と排水水質の情報共有
愛知県 食品工場様
問題点
生産品目の変更によって排水性状が変化していたにもかかわらず、排水処理プログラムが長年更新されていませんでした。
改善内容
排水処理設備の管理者はこの状況を問題視し、生産部門と連携して排水水質の情報共有を開始。原水データから必要なMLSS値を改めて算出し、最適な処理条件に調整しました。
さらに、これまで勘や経験に頼っていた運転管理を手順書へまとめ、数値に基づいた管理体制へと改善。属人化を防ぐことで、担当者が変わっても同じ品質で運用できる仕組みを整えました。その結果、月あたりの電気使用量は15%削減され、設備管理の引継ぎもスムーズにできる体制が実現しました。
お客様の声
排水処理が不安定な状態で困っていましたが、不安定になる要因から丁寧に調査していただき、生産部門と連携しながら改善を進めたことで、安定した運用ができるようになりました。

また、これまでは何となく運用していた部分も多かったのですが、調整値や基準値を明確に設定したことで、日常管理の中でも早い段階で異常に気付けるようになりました。
引き継ぎの際も管理内容を明確に伝えられるようになり、安心して運用できる点が良かったと感じています。
よくある質問
計算上の数値と現在の数値に差がある場合、MLSSは徐々に下げていけば、水質に異常が出た際に再度元に戻すことで対応可能です。水質に影響が出た場合には、無理に下げることはやめ、元に戻すことが必要です。(計算上の数値はあくまで目安であり、実際の現場での処理とは合わない場合があります)
運転方法の見直しやDO値の適正管理でも電力削減ができる可能性はあります。まずは現状設備でできることを検討し、設備更新はその次のステップです。
見た目上の基準を満たしていても、運転が非効率になっているケースは多いため、定期見直しを推奨します。明らかに排水水質に変化があるような場合も、処理水水質を確認しながら処理プログラムを見直すことをお勧めいたします。
工場ペディア編集部からのメッセージ
現状設備の調査から改善提案まで、お悩み解決をサポートします
排水処理における電力コストの削減は、設備運用においてますます重要なテーマとなっています。今回ご紹介したように、MLSSの適正管理やブロア運転の見直し、生産部門との情報共有を進めることで、無理なく電力の削減を実現できます。
さらに、処理内容の見える化や手順書化によって、管理が属人化せず、誰でも適切に運用できる体制づくりにもつながります。省エネと運転効率の両立は、工場にとって大きなメリットとなる取り組みです。
今の設備のままでも改善できるポイントは見つかります。まずは現状を確認し、小さな見直しから始めてみてはいかがでしょうか。現場に合わせた改善提案もサポートいたしますので、お気軽にご相談ください。

この記事を監修した人

谷川 暢
豊安工業株式会社 アクアエンジニアリング部
資格:一級ボイラー技士、ボイラー整備士、一級管工事施工管理技士、第二種電気工事士
得意分野:蒸気ボイラー熱源設備、水処理設備
2000年に入社後、ボイラーの点検・メンテナンスを経て、蒸気ボイラー熱源設備の施工管理を担当。2020年に水処理設備関係業務へ転向。機器の修理・メンテナンス、蒸気配管の管工事施工管理に豊富な経験があり、機械製造工場や食品工場など、蒸気およびエネルギーを使用する企業の対応を行なっている。




